2020.10.21火星 大接近中!
こんにちは。自宅のメンテをサボっていたらついに雨漏りをしてしまい、防水改装工事をする羽目になりました。そのおかげで先日まで趣味の望遠鏡が全く覗けずストレスたまりまくっていた開発の小林です。
さて、2週間前の10/6に火星の最接近がありました。最接近とはなんぞや?というと、火星は地球の少し外側を地球と同じように太陽の周りを回っています。このため地球は365日で一周しますが火星は687日で一周します。(ケプラーの法則・・・覚えていますか?)
地球の方が速いので火星を追い抜いてずんずん進み2年2ヶ月で周回遅れの火星に追いつきます。追いついた瞬間は地球と火星の距離が最も短くなるので「最接近」といいます。地球も火星も楕円軌道で太陽を巡っているため、同じ最接近でも追いついた場所によって距離が異なります。太陽に近い位置で追いつくほど距離が短いわけです。(これもケプラーの法則・・・覚えてますか?)
実は2018年の最接近は近年でもかなり近く、次は2035年まで同じくらいの距離に近づくことはありません。今年はそれに次ぐ近さで、次の機会は2033年まで待たなければなりません。わたしゃそのころには70歳じゃて望遠鏡を持てるかのう・・・
当然、近いほど大きく明るく見えるわけでして
同じ倍率で見るとこんなにも大きさに違いがあります。2018年が一番大きいですね。そしてきっちり2年2ヶ月ごとになっています。
毎回最接近になると、撮影する時間があってかつ夜に晴れたら撮影しています。よくみると火星には独特の模様があってこれが火星人の大運河だとかという説もあったくらいです。その模様をよ~くみると今年の写真だけ複雑な形状をしているのが判ります。ここからが本題!
左下に黒く垂れ下がって見えるのは大シルチスという6000m級の玄武岩の高原で、どの火星にもそれっぽいのが写っています。玄武岩が多いから黒っぽく見えるわけです。地形なので2年やそこらで形が複雑になったわけではありません。実は2015年から研究を続けてきた「劣化画像復元」という技術によってボケた画像から複雑な構造を導き出した結果なのです。
2016年の写真も2018年の写真もこの技術によってボケた画像から復元をして得た写真なのですが、改良を続けた結果ここまで再現出来るようになりました!
撮影したぼやっとした写真からここまで再現することができます。(撮影時に赤色が露光オーバーしたため右下あたりが少し不自然ですが・・・)
よく似た技術で最近巷に存在するAI超解像といった最新技術でもなかなか再現できない画像です。AIは学習した結果を利用して低い解像度から高い解像度の絵を予測して出力しますが、こちらの技術は予測することがなく、ボケた画像からどのようにボケたかの関数を指定してその逆関数から本来のボケてない画像を導き出します。予測しない=間違った絵を出力しない、というメリットがあります。AIだと黒人男性の顔が何となくオバマ元大統領の顔に似てしまう、とった笑い話もこちらの技術ならあり得ません!
2020年の7月に惑星直列があったばかりなので今でも木星と土星が並んで見えています。木星の写真で劣化復元をするとこのようになります。
ホクロが見えてきましたね! いや、ホクロじゃなくて木星の衛星ガニメデの影が木星表面に落ちているんです。もしホクロの上に立って空を見上げると日食が起こっていることになります。
さて、このアルゴリズムをリアルタイム化しようというプロジェクトが立ち上がりました。これを応用すると、天体観測で悩まされるシンチレーションを消すことだってできるんです。シンチレーションキャンセルというと、AO(Adaptive Optics)という装置を使ってゆらゆら動く像を高速に微動する鏡が追尾して補正するといった手法が一般的です。まあすごい装置なんですがアマチュアには敷居が高すぎます!
そんな装置は使わなくてもこんな感じでキャンセルすることが出来ます。
もちろん、画像処理でソフト的に像を追いかける、なんてこともしていません。すべて止まったセンサー上で揺らぐ画像を止めています。木星の表面を見ると斜めの線があって動かないことがわかりますが、これはセンサーの特性が見えてしまっているためです。センサーが動かずに像の方が動いている証拠ですね。
どうです?面白くありませんか?画像に含まれている潜在的な情報をすべて引き出した先にはいったいどのような絵があるのでしょうか。画像が持つポテンシャルをとことん追求したい!それを求めて今日も私は・・・・・・・・・ああ、でもレゴもやりたい~
最後に上の惑星たちを静止画で処理した写真を載せて今回は終わりです。来月末には地平線下に隠れてしまう大惑星たちをご観覧ください。
注)この記事で使用した写真の背景は現在火星がいる「うお座」の星夜写真です。惑星写真との関連はありません。惑星の写真を撮ったらこのような背景が写るわけではありませんのでご注意ください。
記事を書いたあと、風のない良い天気の夜に再撮影してみました。左が実際に撮影された画像で右が撮影した画像から復元処理を行った画像です。火星と木星は自転の関係で模様が異なりますが天気が良いとここまで再現出来ます。